(5)道標〜最終章〜
前回までのあらすじ:今秋10月から放送している第2期「天体戦士サンレッド」の新OP「続・溝ノ口太陽族」を急遽ニューヨークでレコーディング(以下REC)しようということになり、3泊5日の強行スケジュールで
つつがなくRECは終了するもすぐさま翌日に控えていたイベント、その後8/22日に控えた本番までの断続的なリハ。無事ステージを完遂出来るのか?!
8/8(土)15:00頃
成田へ無事到着。
着いたと同時に持っていってた携帯の電源を入れると留守電が。DLEさんから盆開け閉めきりの「平成天才ヴァカボン」OP音源の催促だった(笑)
そやな、いつまでも観光気分じゃいかんな。帰りはリムジンバス(初乗車!)で帰ってきた。恐ろしく法定速度で走るんだね。
東関道から先の景色の記憶がてんでなくて、次気づいたら混んでる首都高の中だった。思いのほか疲れていたようだ。
夕刻早々に自宅に到着するも、明日のイベントに備えるためにそそくさと就寝。
8/9(日)11:30
イベント「ヤングガンガンFes. アニメのおかげSUMMER 2009」の会場「ステラボール」に到着。
そういえばかってここに桃井はるこさんのライブを見に来たっけ。
その3年後に今度は出演させていただくようになるとはゆめゆめ。しかしまぁ・・・・。
すごくアウェーだ('A`)
だって出演者かわいい女の子ばっかりなんだもん。
いいんですか!こちとらこんなピザなんですよフライングドッグさん?!(笑)
と思ったら、何故かいつもより明らかに柄が悪いヴァンプ様(理由は後ほどわかります)と戦闘員2名が控え室で麻雀をしてるw
3マー(3人麻雀の略)とかするなよwwwwだったら俺も入れて4人でやろうよ!
というわけで
16:00頃、司会進行の高木さん鍋井さんらと共に、岸監督を筆頭にサンレッドの制作スタッフの皆さんが大挙で応援に来てくれる。
ややあって、当日使用するフライングドッグ純正(笑)のサンレッドマスクを、サンレッドの中の人が!これは貴重だ!
17時過ぎ、つつがなく本番へ突入。てかサンレッドトッパチかよ!プレッシャーだわ('A`)
しかし僕の歌に入る前に、サンレッドチームが総力を結集して作ったドキュメント「プロジェクト S」のおかげでだいぶほぐれた。
袖で見ていて感心しきる。パロディもここまでくると笑うよりも唸るね。執念を感じたもん。
柿島さんの劇伴もすげぇギリギリだったしwwwww
そしてラストで出演者全員がステージに出る段になり、相変わらず舞台の後ろに引っ込み気味にいたところで、
くだんのちょっとヒールなヴァンプ様に小突かれたのだ。まぁ悪の組織の将軍だからこれが本来あるべき姿なのだろうけどどうにも腑に落ちないw
なんのこたぁない、終演後ヴァンプ様のその日の中の人が南プロデューサーだったことが初めて判明する。
道理で妙に貫禄もあった訳だ。
「だってmanzoさん、黙ってるとどんどん舞台の後ろに引っ込んじゃうんだもん」
スミマセンクセナモノデ・・・(´・ω・`)
本番の歌のほうは歌詞も飛ばなかったし、出来は上々だったと思う。ちょっと固かったのが省みるべきところ。
8/10(月)19:00
アニサマリハーサル@上北沢
昨日の疲れも残ったまま突入。久しぶりに今回のアニサマのドラムを担当されている佐藤強一さんにお会いする。
2年前、桃井さんのバックバンドでベースをやらせていただいていた時、ドラムを担当していたのが強一さん。
実はNY行きの前に携帯にメールを頂いていた。
「manzo君、もう1曲の方(続・溝ノ口)、簡単なのでよろしくね〜。キメキメは嫌よ」とすかさず
牽制球が(笑)
ソウイワレマシテモ、モウキョクデキチャッテルカラナァ(´・ω・`)
案の定久しぶりの邂逅も束の間、
「新曲、難しいねぇ・・・・」
と。強一さんスンマセン・・・。
その表情と裏腹に、えらく涼しく5拍子+3拍子+4拍子の複合変拍子のパターンをやってのけていた。
流石です。でも仕事増やしてしまってごめんなさい。
後半、桃井はるこさんとのコラボパートのリハ。
桃井さんは当日ステージの左右中央ステージの長さを聞いて、
「じゃぁmanzoさん、2コーラス目あたりでセンターに向かって歩き出しましょうか」
とか、
「あんましシンメトリー(対称)で動いても普通だから、途中からフリーダムにするのはどうですかねぇ」
とか、
「それだと尺が足らないから、間奏を引っ張ることって出来ますかねぇ」
とか、
20畳程度のスタジオを「ここって縦何mくらいですかねぇ。あ。んじゃぁ2往復半くらいかぁ」などといいながら
当日のステージングをシミュレーションした提案をじゃんじゃん出してくる。
本当にこの人はマルチだ。僕は作家脳・歌手脳で終わっているのに、彼女はそれのみならずプロデューサー脳・舞台監督脳・演出脳と
多岐にわたるスキゾォイド気質は卓抜したものだ。ただのスキゾォイドなら散漫なのだが彼女の場合違う。
各々のファクターを統合出来ているからね。セルフプロデューススキルが凄い。毎度の事ながら恐れ入る。
俺にはどだい無理だわ('A`)
8/21(金)17:00
ゲネプロ(通しリハ)。今までのリハの総ざらいのため、さいたまスーパーアリーナへ。
しかし今は便利なんだね、首都高一本で都内からスルっと行けちゃう。さいたま副都心が着々と近づいてくる。
遠くにそのスーパーアリーナ。
コロッセオ風の建造物が聳え立っている。
そこ以外、高層建築が見当たらないこともあり、まるで蜃気楼のような風体にも見える。
行く先はユートピアかエルドラドか。
到着。デカイ。ここでやるのかぁ。見取り図は前もって見ていたから、どういう風か脳内では設計出来てはいたけど。。。想像以上だ。
野崎プロデューサーが今回のお話を下さった時のオーダーは、歌唱的なことでもなく演出的なことでもなく「manzo君、今回とりあえずステージいっぱい走って歌って、中年の心意気を見せて。」だった。
その経緯もあって、気持ちはもはや寛平ちゃんになっていた。「楽しむ」というより「燃やし尽くす」というキーワードが脳を埋め尽くす。
8/8に帰国してからこの日まで、無駄だとは思いながらも毎日6kmのウォーキングをして、多少走っても息が上がらなくなっていた。
とはいうものの、左右約40メートル中央花道20メートルを縦横無尽に走りながら歌うというのは荒行だ。
お客さんを楽しませることなど出来るのだろうか・・・。
歌詞が飛ばないように、段取りを忘れないように、他の演者さんにご迷惑が掛からないように、
などと様々に逡巡しているとドワンゴのプロデューサーさんが集合打ち合わせの際に
「とにかく演者の皆さん、楽しんでください。その楽しさが、お客さんに伝わると思いますしね!」と。
この時、脳内で「プツリ」と音がするのがわかった。何かが吹っ切れた。
そうだよな。そもそもエンターテイメントって、本人が楽しまないとダメだもんね。
ちゃんとやることはすごく大切だけど、「ちゃんとやらなきゃいけない」と思うより「好きなことをやれるだけやりたい!」と
考えてやったほうが何事もいい。結果、それが「ちゃんとやったこと」になるんではないだろうか。
作家暦こそ無駄に長くて15年だけども、アーティストと冠させてもらって5年。もうそろそろ自分の「根を下ろす場所」を決めてもよい頃。
今回のアニサマ出演という機会は、まさに、そういう、自分のこれからの「道標(みちしるべ)」を見つけたのと同じことなのかもしれない。
Enjoy Myself.
8/22(土)
運命の当日。
正午ごろに到着。
実は僕の楽屋はちょっと特殊で、他の演者さんが演者さん同士の楽屋だったのだけど僕はバックバンドの皆様と同じ楽屋だった。
だもんで楽屋がでかくて賑やかで、いろんな意味で僕にぴったりだった。
前述の強一さんを始めとする名うてのミュージシャンたちの愚痴や吐息を聞くにつけ、彼らの置かれている環境の壮絶さを知った。
2日で覚える曲がトータルで90曲以上。しかもアニソンというジャンルはハードロックやプログレと親和性があるせいか楽曲の構成が
非常に複雑なものも多い。それをゲネプロやリハでしれっと弾いていた彼らの心血を目の当たりにしたのだ。
当日本番の彼らの話題は肩こり薬自慢だった(笑)
俺のはこんだけインドメタシンがスゴイぞ、俺のはスプレー噴射がこれだけ的確に患部に届くんだぞと言った、そこだけ聞いたら中年の
悲哀たっぷり、言わば「中間管理職エレジー」といった面持ち。それを見て笑いながらも、そこに職人の命懸けの真を見た気がした。
みんなそうやって満身創痍の中で、各々の手練が出来る最高のパフォーマンスを届けようとしてる。ちゃんとしてないわけがない。
15時ごろ。母が会場に着いた「ようである」。
当日は、招待者の人と接見するのは終演後と決まっていたので、招待客の人とのダイレクトでのやり取りが不可能であった。
まぁとにかく無事着いたらしい。後輩の水野君も寛子ちゃんも無事着いてるんだろうか。
トップバッターの石川智晶さんの声が会場に響くのが聞き漏れてきた。
本番が始まったようだ。始まってしまえばもう止められない。
僕の出番の直前、桃井はるこさんがステージに向かった。
待機場所で野崎P「ほらmanzo固いよ!リラックスリラックス」
古くは泉谷しげるさん、ガンダム劇伴など、巨大プロジェクトを牽引してきた大物プロデューサー野崎Pの
その時の僕を見る眼はまるで、高校時代の夏合宿、それまで鬼の指導してきた先輩が最終日に「今日までみんなお疲れさん。後は秋の都大会全力でな」
と言った時の先輩の眼にそっくりだった。慈愛にも似た。
男の慈愛というのは、その背中に責任・情熱・信念が宿っているものだ。わかってますとも。裏切るものか。
Enjoy Myself.
出演中の事は、実は正直言ってあまり覚えてない。
まぁMCが長かったり(笑)、出番の最後のドラムかき回しが長くて強一さんに迷惑をかけたりと(笑)、
反省材料は19世紀のゴールドラッシュのごとくザクザクと出てくる。まぁ全くはしゃげないけどね('A`)
他の演者さんに関しては色々感想があるのだけども、特にJAM Projectさんかな。
SKILLはやっぱすごいね。モットモット!って袖で盛り上がった!
僕は昔、JAM Projectさんに曲を書いたことがあったんだけど、不勉強ながら彼らのパフォーマンスを生で見たことがなかった。
いやぁ、、、、圧倒された。。。すごいなぁ。
終演後、もう盟友とは言えないほど遠くに行ってしまった桃井はるこさんと。
終演後、中打ちと称したレセプションがあったのだが、まぁまぁ人がゴミのy(ry
重鎮影山さんはLantisの新年会でお会いして以来お久しぶり。
「よぉ!萬ちゃん!カッコよかったよ」と影山さん。恐縮すぎます・・・。
皆様一様に輝いておられて個性に満ち満ちていていた。
その中でも感激だったのは、片倉三起也さんにお会いできたことだ。
彼の書く曲には以前から目を見張っていた。アニソンのみならず、土ワイの劇伴も担当していらっしゃることからもわかるように
彼の曲にはいわゆる「アニソンっぽい」作曲法ではない独創性と汎用性がある。
ゲルニカの上野耕路さんの曲を聞いたときと同じ衝撃と嫉妬があった。
当のご本人も、かなり独特で魅力的な方だった。
そんなこんなで、開演終演中打ちと、過ぎてしまえばあっという間に23時を回っていた。
帰路のすがら、規則的に流れていく水銀灯を見ながら、これからどこに向かっていけばいいのかをそぞろに考えた。
ファンの皆様を始めとする色々な方々の応援、周囲の協力、これらを考えていくことと、自分がどこに向かえばよいのか、
或いは向かいたいのか、何が正しいのか、そして適正なのか、誰が望むことなのか、何をすると倦むことなのか弛むことなのか・・・
Enjoy Myself.
「楽しむ」という言葉は、「働く」「仕事をする」とかと一見対義的に見えるけど、共存可能な言葉だ。
「楽しく働く」「楽しく仕事をする」。
誰しもが考え、また導き出してるかもしれないシンプルな生き方だけど、ここに行き着くのに大いに時間が掛かってしまった。
それだけ僕は突っ張って生きてきたのだろう。
5回に渡ってお送りしてきました「アニサマへの道」ですが、今回を持ちまして終了となります。長らくお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
僕は今回の出演を機に、「アニソン」というジャンルが構築された背景にある旧態依然のパワービジネスによるタイアップマターのCDプロモーション、それに付随するメディア操作、アニソン=ヲタクしか聞かないジャンルという刷り込みを恣意的にしようとしている組織などなど、とにかく黒い政治的意志をさらに確信しました。
一方で、そういうアニメから入ったファンの方々に商業的に目を向けすぎて、本質的な音楽性をある意味で軽んじるようなセールス・プロモーションを散見します。そして僕はそれをよしとしていません。
そういうのを見るたびに悲しいです。音楽の「艶」を知らない人が音楽を制作して売っていて、またそれが売れているのは非常に僕は危険だと思います。負け惜しみと誹られても甘受する覚悟の上で申し上げますが、これは世が世なら翼賛体制と同義です。思想的に。
音楽家は、商業家になりすぎると怖いですね。
僕自身も肝に銘じなければなりません。
かようにアニサマに出演させていただいたおかげで、僕は約20年ぶりに、熱くなっています。20年前=大学時代「日本の政治を変えるには、まず教育だ」と思って手始めに家庭教師をやっていた時代、しょーもない青臭い気持ちを持っていたあの時代に、気持ちが戻ってきています。
こういう切っ掛けをくれた一人に、柿島伸次さんの一言があります。
彼の一言は端的にもかかわらず、すごく重かった。
「僕らはミュージシャンなんだからさ、下手でもいいから楽器もってみんなの前で歌おうよ。それでいいんだよ」
来年はこれを実践していきたいと思います。
長文乱文ご精読頂き、本当にありがとうございました。
それでは、よいお年を。
manzo